
なんで、うちばかり、お義父さんの介護をさせられてるの?

仕方がないだろ?誰かが看なければならないし、弟たちは大阪に住んでいて無理なんだから・・・
高齢社会においては、介護の問題がどの家庭にも当たり前のこととなります。
希望者全員が、サービスの良い介護施設に入居できればいいのですが、一方で、在宅での介護を希望される方もおられます。
この場合、身内の誰かが中心となって、親の介護をしていくことになるものですが、ここで出てくるのは、長男の嫁問題であります。
いくら家族で看取るとはいえ、日中はそれぞれ仕事もあることでしょうから、全員が付きっきりでというわけにはまいりません。それゆえ、さらに家族の中で誰かが代表してこれをしなければならないわけです。これを長男の嫁に限定する必要もありませんが、説明の便宜上、長男の嫁問題として続けます。

例えば、長男の嫁が義父の介護を献身的に行ってきたものとします。
義父が死亡したときに、子どもたち3名で遺産分割協議をして、各々法定相続分で遺産を分けることに合意しました。しかし、義父の介護をしてきた長男の嫁は、長男一家が多めにもらってしかるべきと考えていたために、この遺産の分け方に不満があります。
これまでの相続のルールでは、身内を代表して介護をしてきたことに、相続人ではない長男の嫁は、何らの報いを受けることができません。
寄与分とは

私には寄与分があると聞いたことがあるのですが。
このような場合には、長男の嫁に寄与分があるのではないでしょうか、というご相談を受けることがあります。
(寄与分)
第904条の2 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
民法
寄与分は、法定相続人に認められるものであり、法定の相続分を調整するものに過ぎません。
法定相続人ではない人が被相続人の財産の維持に貢献をしたとしても、もともと遺産を受け取る権利がないため、意味がありません。
上記の事例のように、長男一家が父の介護をしてきたことについて、寄与分を主張して、遺産分割協議の中で調整をすることができますが、長男の嫁の単独の権利として主張することができません。
また、親の介護をすることが寄与分として評価されるのか、という問題も残ります。
同居の家族が身内の介護をするのは、ある程度は扶養の範囲内のこととされることがあるほか、親と同居しているがゆえに、親の預貯金を長男夫婦の生活費として共用していたような場合には、寄与分にはマイナスの材料となることがあります。
親族による特別の寄与の制度
これまでの親族の間の不公平感を是正するために、令和1年7月1日に施行される新しい相続法では、特別の寄与の制度が創設されます。
第1050条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
民法(令和1年7月1日施行)
被相続人の財産に対して無償で特別の寄与をした親族は、他の相続人に対して、直接、寄与に応じた金銭の支払いを請求することができるようになります。
ただし、請求できる期間には制限があります。相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したときや、相続開始から1年を経過したときは、これらの請求をすることができません。
また、遺産分割の手続きを複雑にしないために、特別寄与料の請求は、相続財産に対してするのではなく、各相続人に対してすることとなり、金銭で解決します。
この制度を利用して、実際にはどのくらいの金額の請求ができるのかについては、改正された相続法が施行された後の裁判例を見るまでは、はっきりとはわかりません。
家業を手伝ったことで、あるいは介護を献身的に行ったことで、被相続人の財産の維持や増加にどれだけ貢献できたのか、ということがポイントとなることは、従来の寄与分とは変わりがありません。気軽に認められるものではないということは理解しておく必要があります。
アルバイトの時給のような感覚ではありません。ご自身のなさった故人に対する貢献の度合いが、どのくらいの価値に換算できるのかを証明することとなります。
長男の嫁を救うには
改正された相続法では、親族の特別の寄与による金銭請求権が認められますものの、なかなか思うような金額が請求できるとは限りませんし、身内同士が裁判所で決着をつけるというのも、なんとなく後味の悪いものです。
また、請求できる期間が短いことにも注意が必要です。
長男の嫁にも、遺産を渡せるようにするためには、遺言をつくることや、生命保険の受取人にするなど、いくつかの方法があります。話し合いだけで解決させるのは、酷であるように思います。
相続の場面においては、この場合の長男の嫁のように、相続人ではない第三者が意見をすることで、話し合いが進展しなくなることが争族の典型例です。
自称、法律に詳しい長女の夫や、弁護士の友人がいると称する二男の嫁まで参戦してきた折には、部外者が無責任に意見を発し、話のまとめようがありません。
親がいるうちは、子はもめない。親がいなくなった途端に、もめごとは始まります。
いずれも、認知症になって、判断能力が低下してからでは手遅れです。相続争いの火種は、遺産だけではありません。元気なうちに、家族のために準備をしておくことが重要となります。
寄与分についての改正
令和3年4月に、民法の中で相続に関する内容が改正され、相続や遺産分割について、期限が決められました。
これまで、期限がなかったために相続手続が放置されてしまっていたほか、長期間経過したのちの相続の手続は、証拠が散逸したり、さらに相続が発生したり、複雑になってしまいます。
遺産分割の話し合いをするときに、寄与分を主張できるのは、相続が始まってから10年以内に限定されました。それ以後は、寄与分を主張しても認められなくなります。
相続が始まったらすぐに取りかかることはもちろんのこと、お元気なうちに終活に取り組むこともますます重要になってまいります。
投稿者プロフィール

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昭和56年 名古屋市生まれ、京都大学法学部卒業。
大学卒業後、複数の上場企業の管理部門にて、開示業務、株主総会運営、株式事務を中心に、IR、経営企画、総務、広報等に携わる。
平成26年司法書士試験合格後、名古屋市内の司法書士事務所勤務を経て、平成30年10月、司法書士野田啓紀事務所を開業。地元密着で、相続・認知症対策のコンサルティングに注力する。
令和3年1月、愛知県内で五つの司法書士事務所を統合して、グラーティア司法書士法人を設立し、代表社員に就任する。
ウェルス・マネジメントを深めて、個人や中小企業オーナー向けに、相続、認知症対策、事業承継やM&Aに関与する。税理士、不動産業、寺社と連携し、遺言書、任意後見契約、家族信託の利用を積極的に提案している。
また、自身も、司法書士事務所の承継に取り組む。
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