先日、家族信託の相談をしたいとのご連絡を受け、訪問をしました。
事前に、簡単に聞き取りをして、預貯金のほかに、自宅の土地と建物、賃貸不動産を所有している方で、とても家族信託の提案がなじむお客様です。
ところが、ご本人様と面談してみますと、積極的に会話はされますが、昨日あったことも覚えておられない状況です。
かかりつけの医師からは認知症の診断を受けていました。
訪問介護の職員の方に話を聞いてみたところ、自宅で物をなくしたことで職員の方をどろぼう扱いされたり、賃貸不動産の借主と家賃の受け渡しをめぐって警察を巻き込む紛争になっていたりと、典型的な症状です。
もはや、家族信託はできません。
急いで、成年後見制度(法定後見)を利用することを勧めました。
銀行の口座がどこにあるのかわからない
ご本人様は、お子さんたちと離れて独居されていたため、お子さんたちもどこに財産があるのか把握されていません。
家の中を探しても、通帳を見つけることができません。
本人から聞き取りを行い、ある程度はわかったくらいでした。家族が銀行に訪問したところ、銀行の窓口でもトラブルになっていたことがわかったようです。
認知症になると、すぐになにもできなくなるのか
認知症といっても、原因や症状の重さが異なります。
その日によって、状況が変わる方もおられます。
原因は、アルツハイマー型が最も多く、ついで、脳梗塞や脳出血を原因とする脳血管性認知症があります。
進行の程度は、軽度認知障害(MCI)、軽度、中度、重度と分類されます。
一般には、中度と診断されると、財産管理や不動産の売却など、多くの法律行為を単独ですることが難しくなります。
長谷川式スケールでは、11~19点くらいの方が中度の認知症といわれます。
中度まで進むと、記憶が保てないために日常生活に支障をきたすほか、自立した生活が難しくなるといわれています。たとえば、食事をしたはずなのに食べてないと言い出すようなことは、この時期の特徴です。
この時期まで進んでしまうと、遺言をつくったり、家族信託をすることは難しいと考えてください。
終活は、認知症がはじまるまでに
冒頭で示した事例では、手遅れでした。
準備に早く取りかかるほど、多くの選択肢があります。
遅ければ遅いほど、できることがなくなります。これは、医療ともよく似ているかもしれません。
できないものは、専門家の手によっても無理です。ときどき勘違いをされる方がいますが、黒を白にするのが専門家の役割ではありません。
私たちの役割は、ご本人様やご家族の気持ちや考えを整理して、これを実現するために最短最速の経路で設計して、かたちにすることをお手伝いするものです。
遅くとも、70歳になったら、終活のことを考えましょう。
投稿者プロフィール

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昭和56年 名古屋市生まれ、京都大学法学部卒業。
大学卒業後、複数の上場企業の管理部門にて、開示業務、株主総会運営、株式事務を中心に、IR、経営企画、総務、広報等に携わる。
平成26年司法書士試験合格後、名古屋市内の司法書士事務所勤務を経て、平成30年10月、司法書士野田啓紀事務所を開業。地元密着で、相続・認知症対策のコンサルティングに注力する。
令和3年1月、愛知県内で五つの司法書士事務所を統合して、グラーティア司法書士法人を設立し、代表社員に就任する。
ウェルス・マネジメントを深めて、個人や中小企業オーナー向けに、相続、認知症対策、事業承継やM&Aに関与する。税理士、不動産業、寺社と連携し、遺言書、任意後見契約、家族信託の利用を積極的に提案している。
また、自身も、司法書士事務所の承継に取り組む。
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