
うちの家族はみんな仲よしだから、相続の心配はないよ。
敬老の日に発表されました統計によれば、日本の国民のうち、65歳以上の高齢者が占める割合が29%になったとのことです。
つまり、日本で暮らす約3人にひとりは、高齢者ということになります。
相続の問題は、遺産の分割、相続税に関する節税、納税資金について注目されることが多いですが、注目するべきは、認知症です。
仲の良い家族も悪い家族も、お金のある家庭もない家庭も、誰しもが認知症にかかるリスクがあり、高齢化する現代では、避けては通れないものです。
5名にひとりは、認知症になると予測されています。
重い軽いは人それぞれにしても、身内にひとりは、認知症の方がいるという計算になります。
事例を紹介します。

依頼者は、長女です。
父がお亡くなりになり、相続の手続のために、相談に来られました。家族はとても仲がよく、遺産分割でもめることもないようです。相続税の心配もありませんでした。
その家族は、母が認知症でした。
母の介護は、長女が引き続き担当して、そのために母の相続分も長女が引き受けることで、子どもたちの間では遺産の分け方についても合意ができていました。

法律のとおりに分けるならば、母が2分の1、残りを3名の子で均等に分けることになりますが、話し合いによって、この割合を自由に変えることができます。
この家族の場合には、認知症で財産の管理が自分ですることができない母の相続分を長女が引き受けることも考慮して、母の相続分をゼロとしました。

しかし、ここに問題があります。
遺産の取り分と分け方を決める遺産分割協議は、相続人全員で、協議して、合意することが求められます。
認知症がある程度進行して、判断能力が低下している母には、協議して、合意する能力が不十分です。
この場合、遺産分割協議に先立って、母に対して成年後見人をつける手続をすることになります。そして、家庭裁判所に選ばれた成年後見人が、母に代理して、遺産分割の話し合いに参加することとなります。

ここに、しくじりポイントがあります。
成年後見人は、家庭裁判所の監督のもとで、母の取り分について、最低限度の法定相続分を主張してきます。
つまり、特別な事情がないかぎり、母の取り分をゼロにすることは認められません。
家族としては、今後の母の介護の計画も含めて、遺産の分け方を相談していたのに、思うとおりの遺産分割ができないことになってしまいます。
また、認知症の母に多くの財産を移したところで、成年後見人が就いてしまった以上は、家族であっても自由に使うことができません。資産が凍結します。
では、このようなことにならないためには、どのような方法があったのでしょうか。
ひとつには、父が遺言書をつくってくれていればよかったのです。
遺言書があれば、認知症の母の判断能力の有無にかかわらず、遺産を分けることができます。
ふたつめには、父が民事信託(家族信託)を利用していればよかったと考えられます。
民事信託を活用することで、父から子へ、計画どおりに家族の財産を移すことができ、認知症の母の判断能力には影響されることを回避することもできます。
もめない、税金の心配のない相続であっても、認知症の方が家族にいる場合には、思わぬ落とし穴があることをおわかりいただけましたでしょうか。
また、長生きな人が増えると、お亡くなりになる順番がますますわからなくなることがあります。
年齢の順にお迎えが来るわけではなく、子どものほうが先にお亡くなりになることもめずらしいことではありません。そこまで考えて、相続を組み立てていくことが求められます。
終活をはじめるには、まずは遺言書から。
どのような難しい相続対策をするにも、遺言書が入り口です。
3人にひとりは高齢者となる時代です。もはや他人事ではありません。
家族にあわせたさまざまなご提案をさせていただきます。
投稿者プロフィール

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昭和56年 名古屋市生まれ、京都大学法学部卒業。
大学卒業後、複数の上場企業の管理部門にて、開示業務、株主総会運営、株式事務を中心に、IR、経営企画、総務、広報等に携わる。
平成26年司法書士試験合格後、名古屋市内の司法書士事務所勤務を経て、平成30年10月、司法書士野田啓紀事務所を開業。地元密着で、相続・認知症対策のコンサルティングに注力する。
令和3年1月、愛知県内で五つの司法書士事務所を統合して、グラーティア司法書士法人を設立し、代表社員に就任する。
ウェルス・マネジメントを深めて、個人や中小企業オーナー向けに、相続、認知症対策、事業承継やM&Aに関与する。税理士、不動産業、寺社と連携し、遺言書、任意後見契約、家族信託の利用を積極的に提案している。
また、自身も、司法書士事務所の承継に取り組む。
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