
主人が亡くなったので、銀行に手続きに行ったところ、たくさんの書類が必要であることがわかったうえに、預金がおろせなくなってしまいました。
相続が開始しますと、銀行の預金口座が凍結されてしまい、お金がおろせなくなってしまうことがあります。
生活費を夫婦の一方の預金通帳ですべて管理されている場合には、相続の手続が終わるまで、当面の生活にも困ってしまうことが考えられます。
銀行にバレないように先に引き出してしまう
預金が凍結されることを避けるために、亡くなる直前直後に、キャッシュカードを使って引き出してしまうことがしばしばあるようです。
やめましょう。
これは、親族間のもめごとの原因になりますし、相続どろぼうとして、横領となることがあります。大きな金額が動いていれば、税務調査でも厳しく追及されてしまいます。
これをやるならば、必ず親族全員の同意を得たうえで、資金の使途を明確にして、記録に残しておきましょう。
また、故人に借金がある場合に、預貯金に手を付けてしまっていたために、相続放棄ができなくなる可能性があることにも注意しましょう。
遺産分割協議を済ませないと預貯金がおろせない
かつては、預貯金は、相続が始まっても、相続人らに当然に分割されて、遺産分割の対象とはならないとされていました。しかし、平成28年12月19日に、最高裁判所にて従来の考え方が変更されました。
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
最高裁平成15年(受)第670号同16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。
最大決平成28年12月19日
相続人全員での話し合いが決着しないことには、預金が引き出せません。
話し合いが長引くような場合には、生活費のほか、相続税などの納税資金にも困ってしまいます。
改正された相続法で仮払いが可能に
令和1年7月1日に施行された改正相続法では、これに関して、一部救済手段が用意されています。
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
民法
第909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
預貯金のうち、法定相続分の3分の1に相当する金額または150万円のいずれか小さい金額を上限する金額であれば、遺産分割協議をする前に、各相続人が単独で引き出しをすることができます。

この事例の場合は、配偶者Aは、預貯金の6分の1である100万円まで、遺産分割の話し合いが決着する前に引き出しをすることができます。
使えるお金を手許に残せる相続対策を
相続が開始して、相続人全員で遺産分割の話し合いが解決するまで、預貯金は凍結されてしまいます。
その間の生活費や、納税資金のほか、遺留分侵害額請求があったときの準備のためにも、ある程度はお金を手許で動かせるようにしておかなければなりません。
現在の法制度のもとでは、相続はゴネ得です。
相手を困らせることを目的に、わざと手続を遅延させることもできてしまいます。
特に、遺産相続でもめごとが起こってしまった場合には、資金繰りに困っている相続人に対して、早期解決と引き換えに、有利な条件を引き出そうと迫ってくる相続人もいることでしょう。
グラーティア司法書士法人では、相続に関して遺産分割対策や争族対策として、生前にできる有効な方法をご提案することができます。
思っている以上に、相続には落とし穴があります。うちはだいじょうぶと思っている方こそ、対策が必要です。ぜひ、お早めにご相談ください。
投稿者プロフィール

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昭和56年 名古屋市生まれ、京都大学法学部卒業。
大学卒業後、複数の上場企業の管理部門にて、開示業務、株主総会運営、株式事務を中心に、IR、経営企画、総務、広報等に携わる。
平成26年司法書士試験合格後、名古屋市内の司法書士事務所勤務を経て、平成30年10月、司法書士野田啓紀事務所を開業。地元密着で、相続・認知症対策のコンサルティングに注力する。
令和3年1月、愛知県内で五つの司法書士事務所を統合して、グラーティア司法書士法人を設立し、代表社員に就任する。
ウェルス・マネジメントを深めて、個人や中小企業オーナー向けに、相続、認知症対策、事業承継やM&Aに関与する。税理士、不動産業、寺社と連携し、遺言書、任意後見契約、家族信託の利用を積極的に提案している。
また、自身も、司法書士事務所の承継に取り組む。
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