遺言があっても、のんびりとしていてはいけません。
そのようなお話です。

亡母が、生前に「甲土地を次男に相続させる。遺言執行者はS司法書士とする。」旨の遺言書を作成していた場合に、長男がS司法書士に無断で、甲土地を金融機関の担保に差し入れて、抵当権の設定登記をした事例です。
相続法の改正前後では、結論が異なるため、注意が必要です。
判例では、遺言執行者があれば、遺贈が絶対的に優先し、長男が遺言執行者に無断でした処分行為は、第三者が善意であっても、無効であるとされています。(最判昭和62年4月23日民集41巻3号474頁)
つまり、上記の事例では、長男が甲土地を金融機関の担保に差し入れて、抵当権の設定登記をしたことが無効と考えられます。
令和元年施行の改正相続法では、民法1013条に、2項及び3項が新設され、次のとおり改正されました。
民法
民法(令和元年7月1日施行)
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
遺言に書いてあることを、他の相続人が横槍をいれたり、邪魔をしたりすることは許されず、無効です。
一方で、民法1013条2項が新設されたことにより、遺言執行者がある場合に、遺言の存在を知らなかった第三者とは、早いもの勝ちとなります。
つまり、遺言があっても、先に登記をしたものが優先するということとなります。
また、3項により、亡くなった方や相続人に債権者がいたとき、遺言執行者があることを知らないでした差押や相殺が有効であると考えられます。
冒頭の事例では、金融機関が、遺言の存在を知らなかった場合には、抵当権設定の登記が有効となります。
相続の場面では、遺言がもっとも効き目があります。
遺言があるからといって、安心してはいけません。それだけでは、自分の権利は守ることができません。
相続がはじまったら、速やかに相続登記をしましょう。
投稿者プロフィール

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昭和56年 名古屋市生まれ、京都大学法学部卒業。
大学卒業後、複数の上場企業の管理部門にて、開示業務、株主総会運営、株式事務を中心に、IR、経営企画、総務、広報等に携わる。
平成26年司法書士試験合格後、名古屋市内の司法書士事務所勤務を経て、平成30年10月、司法書士野田啓紀事務所を開業。地元密着で、相続・認知症対策のコンサルティングに注力する。
令和3年1月、愛知県内で五つの司法書士事務所を統合して、グラーティア司法書士法人を設立し、代表社員に就任する。
ウェルス・マネジメントを深めて、個人や中小企業オーナー向けに、相続、認知症対策、事業承継やM&Aに関与する。税理士、不動産業、寺社と連携し、遺言書、任意後見契約、家族信託の利用を積極的に提案している。
また、自身も、司法書士事務所の承継に取り組む。
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